仕事が見つかり、長かった残暑が突然の終わりを告げるのと同じタイミングで、この長い夏休みも終わることになった。仕事が始まるまであと数日。数えてみたら、それまで9週連続山に行っていた。この夏は南アルプスを中心に山梨、長野の山にたくさん行けたから、最後の週はホームである八ヶ岳に行こう、それだけは決めていた。
朝起きたら気持ちのいい秋晴れである。
天気予報を開くと、今日は登山日和だが、翌日も翌々日もあまり良くない。
行くなら今日しかないなぁ。突然決めた。
娘のお迎え時間までに帰ってこれて、のんびり歩けるところ。何も気にせず、山頂を目指さず、コースタイムを気にせず、好きな写真を思い切り撮れる場所はどこかと考えた時、以前行ってとっても気に入ったしらびそ小屋まで行って帰ってくることにしようと思いついた。
天気予報を開くと、今日は登山日和だが、翌日も翌々日もあまり良くない。
行くなら今日しかないなぁ。突然決めた。
娘のお迎え時間までに帰ってこれて、のんびり歩けるところ。何も気にせず、山頂を目指さず、コースタイムを気にせず、好きな写真を思い切り撮れる場所はどこかと考えた時、以前行ってとっても気に入ったしらびそ小屋まで行って帰ってくることにしようと思いついた。
慌てて思いつく荷物をザーッとザックに詰め込んで、しらびそ小屋が営業していなかった時のことを考えて、水や食料を揃え、洗濯物を干しただけで、掃除は翌日に回すことにし家を飛び出した。思いついたその日に登山口まで行けてしまう山がいくつもあることが、山梨のいい所だ。
登山口はヒンヤリして秋の訪れを感じたが、歩き始めると汗が滲み出て、結局は半袖で歩いた。以前、友人と登ったその時に彼女が話してくれた大切な友達の話を思い出しながら歩いた。山という場所は不思議で、初めて会った人でも、いつも会ってる人でも、場所がそうさせるのか、心を開放し、ふだんは見せない奥深い所まで見せ合うことがある。そしてそれはその山の残像と共に心に刻まれアルバムに残る。
空を見上げ光が差し込む葉を撮ることに夢中になっていると、後ろに大きな赤いザックを背負った若い女性が歩いて来ていることに気がついた。東京から来たという彼女は、本沢温泉で初めての一人テント泊デビューをするのだと言う。聞くと、山は高校の山岳部から途切れながらも続けていて、テント泊も何度かしているが、一人は初めてなので、私の大きな荷物(色々と料理しようと思っていたので)を見て、仲間がいるとホッとしたのも束の間、私が日帰りだと聞いてガッカリしたようだった。
本当は本沢温泉に一人テント泊してみようか考えていた。私には何人か山の先生がいるけれど、そのうちの一人の先生からいつか本沢温泉に泊まって、天狗岳や硫黄岳に行くというミッションを預かってるいる。だからいつかやらねばといつも心に留めているが、翌日の天気予報が雨だったこともあり今回はやめたのだった。
飛行機の整備士をしているという彼女としらびそ小屋まで二人で歩いた。彼女と一緒にテント泊したら楽しかっただろうなという思いがふとよぎった。はつらつとしていて、目を輝かせながら歩く彼女は、どんな山を登ってきたか、どんなギアを選ぶのか、そんな話を聞かせてくれたりして、とても楽しい時間だった。
しらびそ小屋に着いたら、小屋のご主人がこちらをじいっと眺めていた。
「今日やってないんです。」
二年前に訪れた時も、その日は小屋は営業していない日だったのだけれど、ご主人の友人がたまたま来ていたタイミングもあり、珈琲くらいならと特別に開けてくれたのだった。また営業していない日に来てしまった。そして二年前のその話をしたら、「昨日泊まった人たちが今までいたから珈琲なら出せるよ」と言ってくださった。そんなつもりで話した訳ではなかったのだけれど、断るということを知らない私は、またしてもご厚意に甘えてしまった、、。
小屋の入り口の屋根の老朽化で、その日は修繕工事をしていて、有名な可愛いリスのついた看板は外されていた。これを次に直すのは20年先くらいじゃないかな、とご主人。そんなレアなタイミングになかなか遭遇できないと喜んでいると、わざわざ外した看板を取り出してきてくれた。甘え下手だと思っていたが、こうやってたくさんの人の優しさに甘えて生きている事を痛感した。
珈琲とレアチーズをゆっくり味わい外に出たら、辺りにはもう誰も居なかった。みどり池の目の前に大きな岩があったので、そこにゴロンと寝転んでみた。日差しがあったので温かさを期待したけれど、岩はひんやりとしていて、その冷たさが夏の終わりを告げていた。慌ててフリースを着込み、お腹はケーキセットで満たされていたので、少し池の周りを散歩したら、ゆっくり下山することにした。
しばらく歩いていると、ご年配の二人組が紅い実のなる木を一生懸命にカメラに収めていた。上りの時に私も同じ木を写真に撮っていたので話しかけてみた。聞けばお二人はプロのカメラマンとライターで本も出版しているそうだ。「こないだ賞ももらったのよ!」とお茶目な笑顔を覗かせた。いつか本沢温泉に行ってみたいけど、自分たちじゃ無理じゃないかと言うお二人に、地図を広げながら直接向かうルートを説明したり、目の前にある切り株を写真に写している彼女たちと意気投合して、ほんの一瞬のすれ違いは「出逢い」になった。
山でも山ではなくても、出逢いは色んな偶然が重なって起こる出来事だ。あの一瞬が違えば、家を出る時間が一分違えば出逢わなかったことがあるかもしれない中で、出逢えたことは奇跡だ。通り過ぎて行く人もいるし、変わる関係、変わらぬ関係、変わりながら続いて行く関係様々で、それは喜びも苦みも含むけれど、どの人との出逢いも宝だ。
「またどこかの山で会いましょう!」
それは約束のない約束。
本当に出会えるかは分からないけれど、そんな合言葉のようなサヨナラの挨拶が私はちょっと気に入っている。